第43章

「こんなに不注意でどうするの?」

低く心地よい声が頭上から聞こえ、樋口浅子の意識を少しだけ現実に引き戻した。

彼女は顔を上げて見上げた。

神のように美しい顔が、彼女の目に映った。

樋口浅子の鼓動は一瞬止まり、そして次の瞬間、リズムを失って狂ったように打ち始めた。

二人はとても近くにいた。

男性ホルモンに満ちた香りを嗅げるほど近く。

体から発せられる熱を感じられるほど近く。

樋口浅子の心臓はますます早く打ち始め、頬も抑えられないほど熱くなった。

「裕樹!」

藤原美佳が突然悲鳴を上げた。

彼女は怒りを抑えながら、素早く二人の方へ歩いてきた。

「裕樹、なんであの女を抱きしめ...

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